黒川博行の本を読んで
疫病神シリーズの「破門」という著書が、ドラマ化されそのCMが少しだけ流れたとき、「この本は、絶対面白い!」となんとなく直感し、読んでみたいなぁとずっと思っていました。
一番最初に読んだのは「螻蛄」という本で、実家の新潟からの帰りの新幹線の中で読みました。
やくざの桑原と建設コンサルタントの二宮が、宗教団体の秀宝を巡って起こる、様々な人間模様と宗教団体の裏にあるお金の問題。
「檀家さんとお寺さん」のほのぼのした関係性とは全く違う、欲の突っ張った人間の落ち処はまさに、圧巻でした。
二宮と桑原の掛け合いの面白さも読みどころですが、何よりも、その出来事に巻き込まれていく人々(特に、いい目を見ている宗教関係者)の人間性の業の深さを描ききっているところが何よりも面白いと思うのです。
彼の本を読んでいくにつれて、人間というのは一筋縄ではいかないものというのを改めて知ることができました。
色々考えさせる中で、思うのは彼の本に出てくる人たちは主人公も含め「かっこよくて、ハードボイルドで喧嘩が強くて、何にも縛られない人」という典型的なヒーローは全く登場しない点です。
疫病神シリーズに出てくる二宮は、喧嘩は強いし、怠け者だし、コンサルタント業もかつかつの状態でやっている人物です。
対する桑原は、悪知恵は働くし喧嘩は強い。
お金ももっているし、女にもモテる、ともすれば主人公の二宮よりもダークなヒーローとして扱いたくなるような人物。
なぜ、二宮が主人公になったのかを考えてみると、一つ思うのは、この人間性の業について私たちと同じ立ち位置にいる二宮に吐き出させることで(色々と痛い目にあいながら)私たちも彼らと同行しているのではないかと思うのです。
二宮は、追い詰められた場面になると途端に度胸が据わり、はったりを利かせて相手を出し抜きます。
この逆転劇は黒川節の真骨頂だと私は思います。